遲塚麗水(遅塚麗水)
「不二の高根」
帝、紫微の宮に坐し群仙を會して曰く東方は成果の鍾まるところ坤輿の中樞なりそれ太山を作りて永く萬邦の鎭となすべしと、一夜に大地を擘して此の不二の高根を成る、史あるの前幾千萬載斯の山既に秀でゝ靈あり、惟れ考靈帝の御宇、東海の氣漸く清明に始めて斯の山を中霄に見る、頂は分れて八峯を成しその雪を戴くが為めに宛も玉芙蓉の如し、爾來ニ千年、仰げばいや高く望めばいや尊し、歌仙も其の高きさまを歌ひ盡すこと能はず畫聖も其の尊き形を畫き盡すこと能はず、岳神は容易に秘奥の符を示さずして、唯だ人の獨詣して冥契を得るに任せ、三千年にして一人之を歌ふものあり五千年にして一人之を畫くものあるを俟つ
※登山記の冒頭である。