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2007年04月09日

遲塚麗水(遅塚麗水)

不二の高根
帝、紫微の宮に坐し群仙を會して曰く東方は成果の鍾まるところ坤輿の中樞なりそれ太山を作りて永く萬邦の鎭となすべしと、一夜に大地を擘して此の不二の高根を成る、史あるの前幾千萬載斯の山既に秀でゝ靈あり、惟れ考靈帝の御宇、東海の氣漸く清明に始めて斯の山を中霄に見る、頂は分れて八峯を成しその雪を戴くが為めに宛も玉芙蓉の如し、爾來ニ千年、仰げばいや高く望めばいや尊し、歌仙も其の高きさまを歌ひ盡すこと能はず畫聖も其の尊き形を畫き盡すこと能はず、岳神は容易に秘奥の符を示さずして、唯だ人の獨詣して冥契を得るに任せ、三千年にして一人之を歌ふものあり五千年にして一人之を畫くものあるを俟つ

※登山記の冒頭である。

2006年04月07日

近松門左衛門

「信州川中島合戰」
地 さあ/\敵(かたき)の根は切つたり。國境(くにざかひ)迄お供といはんも此の足元。老母も氣遣ひ。御縁もあらば又重ねて隨分御無事で。其方(そつち)も無事で。さらば。/\と一禮のべ。
コハリ 別れて歸る勘介が。仁は玄徳智は孔明勇は關羽に並びなき。譽れは三國名は高き。富士を移して諏訪の不二。

謡 戀ゆゑ旅を信濃路や。 ナホス 淺間が嶽とつらねける。山の煙も我が思ひには。 フシ 丈も及ばじ。 フシ 富士の山。雪の肌に花の顔。鹿子斑(かのこまばら)の。雲の帶。肩に。素縫(すぬい)の。金紗の フシ 千鳥。裾野の模樣望月の。駒の追風そよ/\戦(そよ)ぐ。


浄瑠璃「聖徳太子絵伝記」
日本廻りのだけ/\の。ふじもつくばもめの下に。もゆるあさまのあさまにも。たにの小川のけふりかとひらやよかはの花ぐもり。見下ろすからに一かすみ。

2006年04月06日

千葉幸江

初冬富士見し夜は白き夢ばかり

2006年02月05日

近松秋江

「箱根の山々」
蘆の湯から頂上まで一里半。婦人や子供でも午前中に行つて來られる。少しの危險のない、優しい山である。そこに登ると展望は更に大きい。富士山は手に取るやうにすぐ西北の空に聳つてゐる。眼の下には蘆の湖の水が碧く湛へてゐる。が、駒ヶ岳は東に向いた方を小涌谷から登つて來る道から眺めたよりも、蘆の湯から双子山の裾をめぐつて蘆の湖の方におりてゆくその途上より仰ぐのが最も優れてゐる。

「いつていらつしやいまし。それは方々がよく見えて、いゝ景色でございますよ。昨日の朝は富士山がよく見えました。あんなに富士山のよく見えることはめづらしいつて番頭さんがさういつてゐました。それは面白うございましたよ。皆で勝手にいろんな面白いことをいひながら。」