渡会昌広
暖房車富士を見しあと子は眠り
« 2006年07月16日 - 2006年07月22日 | メインページへ | 2006年07月30日 - 2006年08月05日 »
暖房車富士を見しあと子は眠り
海雲糶る嗄声に富士晴れゆけり
初富士へ化粧が濃いとひとり言
博多人形の函を機上に富士初雪
子が子負ふねんねこ富士は風の神
九年母や大家族制に富士立てり
五月富士四方より雲の来て留る
蝌蚪生るる田の半分に逆さ富士
馬市や町に峙つ南部富士
大鳥居はみ出してゐる夏の富士
富士を見しこと初旅の余恵とす
炉開きの里初富士おもふあしたかな
富士ぞ雪魯盤か掛けし日本橋
五月雨や富士の高根のもえて居る
青野より富士に近づく一歩かな
客山は富士と秋草丈競ふ
鉞の一撃富士の山開き
芒野の宙や今日のみ女富士
富士仰ぎつづけ主張となる芒
露けしや朝富士の眉刎ねあがり
夏富士の旅思ひ立つ何を捨てに
浦和より見る富士愛し初手水
雲払ふ不二へ穂絮のかぎりなし
「友の訪ひし時詠みける(雑録)」から「和倉温泉に浴して」より
薬師の岳(やま)の峰高く
紫嵐(あらし)に袖をはらはんも
こゝろもとなく弁天の
巌のかげにをりたては
しらべしづけき磯馴松
下枝にかすむ能登富士や
闇の几帳の裾なかく
瀬嵐の森のつぎ/\に
いつしか眠る浜千鳥
※早稲田文学、明治31年(1898)に収録。