中村闇指(あんし)
品川に富士の影なきしほひ哉
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品川に富士の影なきしほひ哉
秋のころ旅の御連歌いとかりに (芭蕉)
漸くはれて富士みゆる寺 (荷兮)
そめいろの富士は浅黄に秋のくれ
雪の富士藁屋一つにかくれけり
「白蛇艸第五集」より
これやこの泥のごとくろがねの研すりたつ腕とぞいふべきかくて三日あそびをりて家路に杖を曳きたりき、今は三とせ四年もやすぎつらん、松井畊雪がもとにて書画どもあまた見わたしける中に、高島芙蓉のかきたる不尽山のゑ、めとどまりて、ほしく思ひけれど、かくともえいはでやみにけるを、此ごろわづらひて何ごともたゞ物うくおもはるゝまにまに、夜ひる衾ひきかづきてのみ有ければ、心のうちいよゝ物さびしくなりもてゆきつゝ、はかなきことゞもいたづらに思ひめぐらさるゝくせなんあやにくなるにつけ、ある夜ねざめにふと此ふじの画にはかに見まほしうなりけるにより、いとあぢきなくしひたるわざにはあれど、かの絵ゆづりくるべく夜あくるまちて、便りもとめ畊雪のもとに、其よしいひやりけるに、畊雪すみやかにうべなひて、人してもたせおこせたりけり、いひやりはやりつるものゝ、いかゞかへりごとすらんと思ひわづらひてありけるほどなりければ、画とり出すとひとしく、病もなにもうちわすれ、やがて壁にかけさせて、しばしは目もはなたでぞありし
痩肩をそびやかしてもほこるかな雲ゐる山を手に入れつとて見し富士の画そらごとゝはなしはてぬ心の曇り去りぞ尽せる上月君の明日故郷にやどりける夜、この菴いとちいさきに松の黒木もて作りたる大きやかなる火桶つねすゑおけるを、今滋とふたりひをけのかたへにちゞまり寝る、狭きこといふばかりなし
「神宮々司拝命記」
十月一日、晴、前七時過より霧立うす曇、十時より晴、後村曇立、正午神宮へ参宮、夫より朝熊山へ登る、則泰、敏夫、包三郎同道也、里程は、宇治橋より山上迄六拾町也、坂路中々に嶮し、後三時廿分に山上豆腐屋といふ旅籠店ニ着し、離れ座敷に休息し、荷物抔預け、又、坂路四町登りて虚空蔵堂あり、奥の院の脇に、富士山拝所あり、海上の眺望よし、