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2006年04月30日

山吉空果

睦月富士翼のごとき雲もてり

砂田貴美子

大寒の富士をそびらにクレーン船

※この方の情報を教えてください!

山口誓子

下界まで断崖富士の壁に立つ

十里飛び来て山頂に蝿とまる

富士山に生れて死ぬる黒ばった

日本の霞める中に富士霞む

どんよりと利尻の富士や鰊群来(にしんくき)

富士火口肉がめくれて八蓮華

愉しまず晩秋黒き富士立つを

雪の富士大き空間占めて聳つ

雪の富士高し地上のものならず

解け雪富士山潜り八海に

富士山頂吾が手の甲に蝿とまる

四時起きに残雪の富士起きゐたり

富士の雪大沢崩れ降りて来る

初富士の鳥居ともなる夫婦岩

鯉幟富士の裾野に尾を垂らす

近江富士青を凝らして青峯なす

富士伊吹同じ霞の棚引けり

富士の雪天地の境越えて垂る

富士霞む伊吹も霞む距たりて

雪の無き前山雪の富士隠す

全山の雪解水富士下りゆく

草の絮優遊富士の大斜面

2006年04月29日

男性滑落、骨折

山日:2006年04月27日
 ・ 26日13時半ごろ、登頂後、8合目(標高3020m)付近で滑落。
 ・ 甲府市の会社役員男性(47)が単独下山中に。
 ・ 左足首を骨折。119番→県警ヘリ「はやて」が救助、病院へ。
 ・ 登山開始は同日6時半ごろ。
 ・ 風で飛ばされたゴーグルを拾おうとして、バランスを崩した模様。
 ・ アイゼンなど冬山装備は着装していた。

三橋敏雄

裏富士は鴎を知らず魂まつり

海風や次第に雪の表富士

三橋敏雄について

三木十柿

秋夕焼不二の黒さを残しけり

※この方の情報を教えて下さい!

三田逃水

臘梅や不二にも重き空の青

三上良朗

蕎麦刈つて富士は根雪となりにけり

三枝正子

墨色の富士へ短かき男郎花

三好達治

艸木瓜や山火事ちかく富士とほし

2006年04月28日

佐藤春夫

欅落葉野末は富士の白くして


「オリンピック東京大會賛歌」
○オリンポス遠きギリシャの
 いにしえの神々の火は
 海を超え荒野をよぎり
 はるばると渡り来て
 今ここに燃えにぞ燃ゆる
 青春の命のかぎり
 若人ら力つくして
 この國の世界の祭
 喜ばん富士も筑波も
 はためきて五輪の旗や
 へんぽんとひるがえる
 日本の秋さわやかに

※4番まである

佐藤脩一

夕富士に寒雲こぞる別れかな

細見綾子

新雪の富士の肩荒きへら使ひ

春雪の富士遠からず近からず

細木芒角星

秋空に富士の孤高の犯されず

斎藤梅影

雲の上行く二日目や富士詣

※この方の情報を教えて下さい!

斎藤玄

寒声や柱のごとき富士応ふ

山下滋久

窓に富士得たる勤労感謝の日

2006年04月27日

太田牛一

「信長公記」
富士の根かた、かみのが原、井出野にて、御小姓衆、何れもみだりに御馬をせめさせられ、御くるひなされ、富士山御覧じ候処


太田牛一について

佐藤紅緑

野の末に小き富士の小春かな

佐藤幸寿

出羽富士の明るき日なり鮭のぼる

2006年04月26日

宝永山で遺体発見

静岡社会:2006年4月23日
 ・ 千葉県木更津市に住む32歳の公務員の男性。
 ・ 22日早朝に「富士山の写真を撮りにいく」といって自宅を出たが、夜になっても帰宅せず。
 ・ 携帯電話でも応答なし。
 ・ 男性の車は御殿場口で発見。

読売静岡:24日
 ・ 自衛官男性(32)
 ・ 23日御殿場署に妻(38)から連絡。
 ・ 同日朝から署員ら25人と県警ヘリで捜索。
 ・ 御殿場市中畑の5合目太郎坊付近の登山口駐車場で、男性の軽乗用車を発見。
 ・ ジャンバーとリュックの軽装備。
 ・ 24日も午前5時から40人体制で捜索予定。

毎日静岡:24日
 ・ 23日未明に自衛官宮木伸二氏の妻から届出。
 ・ 「22日に富士山に写真を撮りに行った夫が夜になっても戻らず携帯も通じない」
 ・ 身長164センチ、体重64キロ、角刈りで、青色の登山用ザック。

毎日静岡:25日
 ・ 24日午後1時50分ごろ、宝永山(標高2693メートル)火口付近で遺体で発見。
 ・ 山岳救助隊と県警のヘリ1台が捜索を続けていた。
 ・ 宝永山火口から400メートル下った岩場に倒れていた。
 ・ 御殿場署では滑落したとみている。

佐藤一色

富士を背に源氏蛍の小宇宙

※この方の情報を教えてください!

佐土井智津子

富士現れて万物露を輝かす

佐田栲

冬耕や蒼天の富士全かり

※この方の情報を教えてください!

佐々木六戈

よく吠えてこの寒犬の富士額

根岸善雄

うすうすと容なす富士冬菜畑

2006年04月25日

久保田万太郎

夕富士のいろの寒さとなりにけり

ゆく秋の不二に雲なき日なりけり

かまくらの不二つまらなき二日かな

ゆく年の不二みよと也瑞泉寺

不二に雲かゝりて霜の消えにけり

ゆく春や客にみせたき不二みえず

夕みぞれいつもは不二のみゆるみち

桑畑へ不二の尾きゆる寒さかな

雲かぶる不二におどろく二月かな

はや梅雨の曇りの不二をかくしけり

日ざかりや不二をみせじと雲の波

今瀬剛一

初富士が車窓にありて誰も言はず

今橋眞理子

初空へ雲を放ちて富士現るる

冬濤ヘカーブを切れば富士のあり

寒濤に富士立ち上がる如くあり

今井千鶴子

ベランダの椅子に大きな富士の闇

夕富士を見つつ帰らん日は永き

黒木野雨

初不二やいまに変らぬ駿河台

川柳2

富士の山三宿り程はついて行き

三島女郎三国一の化粧水

動かざる富士道連れに二タ日ほど

水に木の葉も浮き島の富士颪

左富士しばらく首を矯(た)め直し

真ッ白な名歌を赤い人がよみ

田子の浦白きをほめる赤い人

赤人の歌白いのを百へ入れ

富士の歌山の辺りの人が読み

富士山を地引きにかける田子の浦

富士山の上を漕ぎ行く田子の浦

田子の浦船頭山の上を漕ぎ

凪の日は富士に網打つ田子の浦

沖釣りのいくらか富士に餌を取られ

瀬の早きことも三州一の川

墓水に富士一つづつ清見寺

富士もう薄く清見寺夕勤め

清見寺目馴れて低き富士の峯

御一生富士を間近に御上覧

富士と釣り合って大きな御器

隠密を富士のふもとで局いい

富士を見無くして力の落ちる旅

鎌倉を丸明きにして富士を狩り

勝れたる頭は富士に勢子を入れ

兄弟のほまれ三国一の場所

兄弟は富士を枕にするつもり

富士の裾貧乏神の社あり

人穴に猪武者を乗り込ませ

人穴も名所となって入りもせず

柱の九合目富士講の日掛箱

先達はきめゃうちゃうらいばかり云う

先達の棒を集めて宿をとり

路銀まで山割りにする富士道者

富士道者友を集める笠印

江戸の富士裾野は茄子の名所なり

駒込は一富士二鷹三茄子

駒込の富士は二三も一トところ

いい天気高田へ富士が二ッ見へ

富士山は穴八幡に遠からず

浅草の不二も裾野に升目あり

2006年04月24日

高柳重信

富士白富士至るところの富士見

いまわれは遊ぶ鱶にて逆さ富士

赤富士不二も不一も殴り書き

雪しげき言葉の富士も晩年なり


「戸田町の正月」
秩父颪と呼ぶ北風が、日がな一日吹きつのり、空気が澄みきってくる夕暮れどき、夕焼に染(にじ)んだ西の地平線にくっきりとした富士が雪を被て、うす桃色に遠望できるのが、わずかに正月らしい風景なのであろうか。しかし、その遠望の富士につづく枯色の荒川の堤防や、更にそのこちら側の畑には、元旦早々から麦踏みの人影が見え、思えば、富士の遠望に心を奪われているのは酔眼の僕ただひとりのようである。

黒川憲三

黒富士を稲妻が刺す大地かな

黒坂紫陽子

富士登山うしろに迫る馬の息

高野寒甫

夕富士の火屑となんぬ稲雀

高浜年尾

初富士は枯木林をぬきん出たり

山荘の富士ざくらこそ見ほましく

避暑三日富士の笠雲雨か風か

斎藤長秋(幸雄)・莞斎(幸孝)・月岑(幸成)

「江戸名所図会」
高田富士山 稲荷の宮の後にあり 岩石を畳むて其容を模擬す 安永九年庚子に至り成就せしとなり この地に住める富士山の大先達藤四郎といへる者これを企てたりといふ 毎歳六月十五日より同十八日まて山を開きて参詣をゆるす 山下に浅間の宮を勧請してあり

2006年04月23日

石川丈山

「富士山」
仙客来遊雲外巓
神龍棲老洞中淵
雪如■素煙如柄
白扇倒懸東海天

※■(糸へんに丸)

※仙客来たり遊ぶ 雲外の巓
 神龍棲み老ゆ 洞中の淵
 雪はがんその如く 煙は柄の如し
 白扇倒(さかしま)に懸かる 東海の天

高木晴子

初富士を眺めの句座をしつらへん

荒井正隆

クレソンの葉混みはぐくむ富士の水

初富士の天つ袴として立てり

高橋青湖

南部富士地吹雪寄する中に聳つ

高橋謙次郎

稲刈に富士が一日ある日和

高木石子

秋の燈を湖畔に配り富士暮るる

高浜虚子

富士詣一度せしといふことの安堵かな

とある停車場富士の裾野で竹の秋

北に富士南に我家梅の花

初富士や双親草の庵にあり

初富士や草庵を出て十歩なる

撫子も草の庵も富士のもの

暗やみの中に富士あり羽蟻の夜

代馬は大きく津軽富士小さし

ひろびろと富士の裾野の西日かな

門飾吹きゆがめたる富士颪

富士詣一度せしといふ事の安堵かな

富士に在る花と思へば薊かな

高橋淡路女

おほらかに裾曳く富士や花芒

初髪や眉にほやかに富士額

高木蒼梧

夏富士や晩籟神を鎮しむる

芒野はしろがねに日は富士に落つ

2006年04月22日

幸喜美恵子

都庁舎へ富士の初雪見にのぼる

向山隆峰

泥舟に富士の筆太飾米

紅林震

鼻先の脚にあんじん富士詣

※この方の読み方を教えて下さい!

古川芋蔓

雨雲にかくるゝ富士や南瓜蒔く

甲賀山村

湖へだつ不二真向にささげ干す

原コウ子

尿する野路の童に夏の富士

原柯城

初富士は裾曲ぼかしに伊豆の浦

短夜の月に肩濡れ利尻富士

五島高資

気をつけをして立つ父と 夏の富士

壺焼や富士に雨雲近づける

気をつけをして立つ父と夏の富士

五島高資について

溝俣炬火

纏ひゆく三保の松影富士雪解

江里昭彦

富士はいつも富士削りとる風のなか

清水義範

「日本文学全集第一集」の「小倉百人一首」から
「親父(おやじ)富士」  呑度鈍(どんどどん)・歌
○田子のヨー 田子のヨー
 おれが育った田子の浦にはヨー
 あとにひかえた親父の富士がある
 雪をいただく偉大(おおき)な姿が
 いつもおれを見守っている
 おれはヨー 心のなかで親父の 親父の富士をヨー
 いつも頼りにしているんだヨー

2006年04月21日

明空

「宴曲抄」より
望月の駒牽(ひき)かくる布引の
山の違(そがひ)に見ゆるは 
海野白鳥(しろとり)飛鳥(とぶとり)の 
飛鳥(あすか)の川にあらねども 
岩下かはる落合や 
淵は瀬になるたぐひならん 
富士の根の姿に似たるか塩尻
赤池坂木柏崎 
同(おなじ)雲居の月なれど 
何の里もかくばかり

※早歌?

五島エミ

白富士を輪投げの的に裾野の子

2006年04月20日

斯波園女

雪に思へ富士に向はば故郷の絵

霜やけを不二の光にこころ儘

しら糸に霜かく杖や橋の不二

不二見えてさるほどに寒き木間かな

※霜やけ「も」不二の光に心まま?

後深草院二条

「とはずがたり」
煙もいまは、絶え果てて見えねば 風にもなにかなびくべくとおぼゆ。

富士の嶺は恋を駿河の山なれば思ひありとぞ煙立つらん

杯すゑたる小折敷(をしき)に、書きてさしおこせたる、
   思ひ立つ心は何のいろぞとも富士の煙の末ぞゆかしき
いと思はずに、情ある心地して、
   富士のねは恋をするがの山なれば思ひありとぞ煙立つらん
馴れぬる名残は、これまでもひき捨てがたき心地しながら、さのみあるべきならねば、また立ち出でぬ。

金田清光

富士行者杖の日の丸古りにけり

金子麒麟草

寒夕焼遠富士の上の一つ星

金子潮

不二初雪蚕を終へし窓開かれて

2006年04月19日

阿仏尼

「うたたねの記」
不二の山は、ただここもとにぞ見ゆる。けぶり雪いと白くてこころぽそし。風になびく煙の末も夢の前に哀れなれど、上なきものはと思ひ消つこころのたけぞ、ものおそろしかりける。甲斐の白根もいと白く見渡たされたり。


「十六夜日記」
富士の山を見れば煙もたゝず。むかし父の朝臣にさそはれて、「いかになるみの浦なれば」などよみしころ、とほつあふみの國まては見しかば、「富士のけぶりの末も、あさゆふたしかに見えしものを、いつの年よりか絶えし」と問へば、さだかにこたふる人だになし。
「たが方に なびきはてゝか 富士のねの 煙のすゑの 見えずなるらむ」。
古今の序のことばまで思ひ出でられて、
「いつの世の ふもとの塵か 富士のねを 雪さへたかき 山となしけむ。
 くちはてし ながらの橋を つくらばや 富士の煙も たゝずなりなば」。
今宵は、波の上といふ所にやどりて、あれたる昔、更に目もあはず。
廿七日、明はなれて、後富士川わたる。朝川いとさむし。かぞふれば十五瀬をぞ渡りぬる。
「さえわびぬ 雪よりおろす 富士川の かは風こほる ふゆのころも手」。
けふは、日いとうらゝかにて、田子の浦にうち出づ。あまどものいさりするを見ても、
「心から おりたつ田子の あまごろも ほさぬうらみと 人にかたるな」
とぞ言はまほしき。

「立ち別れ 富士のけぶりを 見てもなほ 心ぼそさの いかにそひけむ」。
又これも返しをかきつく、
「かりそめに 立ちわかれても 子を思ふ おもひを富士の 煙とぞ見し」。

桂樟蹊子

富士晴れて代田へ分つ映り水

黄菅群れ淡くて富士の沈みがちに

熊田鹿石

鴨の群下り来て乱すさかさ富士

※この方の情報を教えて下さい!

轡田進

林泉は富士の伏流榛咲ける

繍線菊や富士を纏く道やはらかし

鍵和田ゆう子

遠富士に雲の天蓋雛祭

富士隠す冬山ひとつ東歌

初荷幟の白さを競ひ富士ある町

茎立や富士ほそるほど風荒れて

※(ゆう=禾+由)

原裕

てのひらに富士を乗せたる秋の暮

2006年04月18日

玉澤淑子

一人来て二人三人雪解富士

宮原勉

雪の野の上に見えつつ富士ヶ嶺はくろずむ雲とともに黒ずむ

金子兜太

富士を去る日焼けし腕の時計澄み

妻に鶏卵われに秋富士の一と盛り

富士たらたら流れるよ月白にめりこむよ

破戒僧忽然と現る富士忘れいしに

「すべて腐爛(くさ)らないものはない」朝涼の富士

朝がきて蜻蛉いっせいに富士突き刺す

猪走る朝富士褐色の腐り

富士見えぬ真昼銀漢も地に埋まり

富士黒く露にまみれて嘔吐の熊

五月富士妻癒えたれば野路に親し

京極杞陽

早子いふ秋晴の不二よかりしと

京極杜藻

一鳥啼かず富士初雪のきびしさに

2006年04月17日

葛原繁

富士の秀(ほ)を吹き越ゆる雲冬空の
   真洞(まほら)に流れ止むときもなし

※葛原繁氏(歌人)は葛原しげる氏(童謡詩人)と異なるようだ。

宮下翠舟

奔放に雲をぬぎすて葉月富士

星ぞらに下田富士あり梅匂ふ

邯鄲の闇もて富士を塗りつぶす

及川貞

富士のみはくろし秋晴くづれずに

久保田泉

鮠釣の正面晴るる近江富士

久保田重之

寒夕焼富士一日の力抜く

2006年04月16日

吉野義子

二日富士あたらしき雪重ね被て

宙に浮く富士の痩身枯月夜

大年の宙にあひあふ月と富士

除夜零時星二つ連れ月の富士

月光の富士をたまひて村眠る

初晴や凍湖平らに富士に侍す

町の路地富士へひらけてさくらの芽

暁の富士瓜刻む音藁屋より

富士を截る一枝平らに朝桜

夕桜一樹もて富士覆ひけり

さくら一枝くぐりて富士へ一歩寄る

一片の雲をゆるさず花と富士

碧天に雪富士いまだ湖覚めず

有働亨

梟に白装束の夜の富士

大沢崩れ御山洗の雲深し

慈悲心鳥岩壁富士に対したり

富士の山体そのものには川の名に値する川はなく、山体に降る雨は山体に浸み込み、十数年を経て地表に湧出すといふ。 「富士伏流水」と呼ぶ。白糸の瀧亦然り。
   色鳥や富士伏流水瀧と展く

海道記

富士の山を見れば、都にて空に聞きししるしに、半天にかかりて群山に越へたり。峰は烏路(ちょうじ)たり、麓は蹊(けい)たり、人跡、歩に絶へて独りそびえあがる。雪は頭巾に似たり、頂に覆ひて白し。雲は腹帯の如し、腰にめぐりて長し。高きことは天に階(きざはし)たてたり、登る者はかへつて下る。長きことは麓に日を経たり、過ぐる者は山を負ひて行く。温泉、頂に沸して細煙(さいえん)かすかに立ち、冷池、腹にこたへて洪流(こうりゅう)をなす。

川柳1

大変なことは孝霊五年なり

孝霊五年あれを見ろあれを見ろ

孝霊五仰むくものに覗くもの

ヤレ起きろ山が出来たと騒ぐなり

明くる朝不思議に思う波の音

湖になったで山があがるなり

サァサァ江州と駿州の次第

富士の絵図諸国で売れる孝霊五

絵に写しこの山昨夜と奏聞し

寝耳に水の奏聞を近江する

奏聞に近江が済むと駿河出る

二度の奏聞寝耳へ水の音

富士山は下手が書いても富士と見え

山の図に扇を開き奏聞し

孝霊に近江の年貢皆無なり

二ヶ国の貢は許す孝霊五

孝霊の前は名のなき明日見村

孝霊五無精でなくばすぐ見村

三国一の無精者明日見よう

仰向いて嘘だ嘘だと明日見村

惜しい事末代見えぬ明日見村

鹿を追う猟師のような明日見村

実語教富士と布袋をそしるよう

相撲取り子には教えぬ実語教

富士を見ぬ奴が作りし実語教

実語教孝霊五より前の作

実語教孝霊前の作ならん

目出度さは此の上もなき富士の夢

心地良さ夜舟で春の富士を見る

有り難さ枕を高く富士の夢

日本の夢は一夜に湧いて出る

孝霊の以前は美女も丸顔

富士山を額に書いたいい女

美しさ富士の麓は柳なり

美しい富士三日月が二ッ出る

湯上がりの富士の額に煙り立つ

和らかな国にむっくり芙蓉峯

近江から一夜に咲いた芙蓉峯

時知らぬ娘は何時も二十なり

お富士様幾つ十三七ツなり

業平に二十くらいと姫見られ

同い年何時でも若い月と富士

十三七ツ未だ年は若い富士

面影も変わらず今に二十なり

不老不死保って今に二十山

面影の変わらで年の二十山

なま長い御名は此花開耶姫

本名は開耶姫にて御富士様

開耶姫俗名御富士様といい

開耶姫三国一の富士額

開耶姫夏珍しき薄化粧

秋風に白粉をする開耶姫

げっそりと夏やせをする開耶姫

一合の事で天まで届きかね

平地だと榎を九本植えるとこ

天と地の間を九里余も登るなり

時知らぬ山を尋ねて徐福来る

表舵にに富士へ引き向け徐福乗る

琵琶よりも富士は異国へ響くなり

大きな湖水山のつん抜けた跡

抜けがらも三国一の水たまり

跡は野と成らず大きな湖となり

近江者うぬがのように富士をいい

竹生島だけが一合不足なり

駿河へは九引きて近江一残り

富士島と言うべきとこを竹生島

三国の二を宝永に産み落し

宝永の頃降りものが壱つ増え

年寄りが寄ると話に砂が降り

新造に砂の降ったる物語り

山一つ十文銭とおない年

此の山で銭を鋳たかと道者聞き

町々の西をば富士でおっぷさぎ

快晴さ富士の裾野に江戸の町

日本一を二つ見る日本橋

越後屋の春正面に富士を見せ

大きな見世のひあわいで富士が見え

角川源義

火の祭富士の夜空をこがしけり

黄鶲に焦土のごとく富士くだる

富士近き街に目覚めぬ百日紅

繍線菊(しもつけ)の道とほどほし富士の前

海遠く富士に雪来と楮蒸す

のぼり来て冨士失ひぬ花胡桃

富士近き街に目覚めぬ百日紅

久米三汀(久米正雄)

雲四散して初富士の夕眺め

茶の花に富士の雪翳青きかな

茜富士かな/\杉に収まりぬ

秋かやを出て赤富士を目のあたり

硝子絵のよな初富士の浮く浦輪

薄雲の中に初富士ありにけり

泳ぎ出でゝ日本遠し不二の山

武田泰淳

「富士」
 「富士が燃えているよ」
彼は、たしかに、そう言ったと思う。いや、私がたじろぐほど、しっかりした眼つきで私を見つめ、まちがいなく私に向かって、少年はそう言ったのだ。宣告したのだ。「富士が燃えているよ」 それは、風に吹きさらされる大煙突のてっぺんから、はるか彼方に赤く燃えさかる富士の実景を、彼の肉眼で、しっかり見てとったという意味だったろうか。それとも、視力にたよらぬ悪意ある暗示だったのだろうか。

吉田冬葉

野に遊び真白なる富士に驚きぬ

吉村あい子

暗闇に故里訛富士詣

吉川春藻

夜の不二と夜鷹の声と澄みまさり

吉岡富士洞

初飛行卒然と富士指呼にあり

吉井竹志

牧牛の群る高原や皐月富士

岩下ただを

雁渡し富士を遠見に父母の墓

※この方の情報を教えて下さい!

岩間民子

目刺青し富士麓までよく見える

岩淵晃三

ひと刷けの土牛の富士の淑気かな

亀井糸游(亀井絲游)

夜は富士の闇のかぶさる冬構

岩松草泊

野は夕焼富士晴れてゆく晴れてゆく

橋本榮治

富士夏嶺谺雄々しく育ちをり

銀河懸け富士に流るる登山の灯

橋本夢道

昇り蝶大群青の富士初夏

元日や山容無類不老富士

軍隊なき夏富士を見てありがたし

橋本多佳子

胸先に黒き富士立つ秋の暮

2006年04月15日

与謝蕪村

不二ひとつ うづみ残して わかばかな

富士を見て通る人あり年の市

富士ひとつ埋みのこして若葉かな

不二颪十三州の柳かな

玉あられこけるや不二の天辺より

飛蟻とぶや冨士の裾野ゝ小家より

レーダードーム館、指定管理者制度へ

山梨日日:2006年04月14日
 ・ (財)富士吉田コンベンションビューロー(理事長は市長)が8月末で解散することが決定。
 ・ 市観光協会と再編統合した新財団を設立、9月から業務移行。
 ・ 国際会議誘致が低調で、組織再編。
 ・ 新財団は引き続き観光振興や国際会議誘致などを進める。
 ・ 現在の財団は1991年に北ろく7市町村や県、富士吉田商工会議所や民間企業などが基本財産1億3000万円を出して設立。
 ・ 市は富士山レーダードーム館、道の駅、富士山アリーナの3施設について、指定管理者制度を導入する。
 ・ 道の駅は今のところ、現在の財団が運営を受託していて、新財団は指定管理者受託も視野に入れているとみられる。

和田暖泡

裾山の雲こそ早し富士小春

公魚の穴釣り富士に皆背き

鈴木只夫

青富士のいよいよ蒼き野分かな

北州(島本北州?)

雪解富士見ゆる裏なり雑魚干せる

鈴木正代

往還の暦日永し雪解富士

※この方の情報を教えてください!

北光星

虻唸る高さに身ゆる利尻富士

林寛

深雪晴富士の全容迫りくる

※この方の情報を教えてください!

有馬壽子

初冨士の擂鉢ほどに遠かりき

野々口立圃

かはらぬや其ふりかかりふじの雪

木村秋峰

厚化粧して雛の日の表富士

※この方の情報を教えてください!

木村史津子

きさらぎの裾野ふくらむ女富士

堀江都紫

冬麗の富士が巨きく野に座る

※この方の情報を教えてください!

北野里波亭

初富士の全容を置く籬かな

堀内ひろし

富士仰ぐ背に意表つく時鳥

2006年04月14日

橘南谿

「東西遊記」
山の姿峨々として嶮岨画のごとくなるは、越中立山の剣峯に勝れるものなし。立山は登ること十八里、彼の国の人は、富士よりも高しと云。然れども越中に入りて、初て立山を望むに、甚高きを覚えず、数日見て漸くに高きを知る。

東京大学法理文学部第八年報

同月(七月)二十七日往復三週間を期シ、理学研究ノタメ、理学部教場助手山田尭扶ニ、物理学第三生徒ヲ随行セシメ駿州富士嶽ヘ派遣ス。時ニ教授メンデンホール、チャプリン両氏モ亦私費ヲ以テ該地ニ至リ、生徒ノ実験ヲ監督ス。

福田甲子雄

しばらくは雪煙りあげ夜の富士

たっぷりと柿にいろのる夜明け冨士

初富士の茜に染まる雪煙

保坂伸秋

富士の肩鷲づかみして雲は夏

朝富士の素肌の荒きほととぎす

米沢徳子

日の湖も荒富士も越え春の雲

※この方の情報を教えてください!

米沢登秋

早発ちに雲ぬぎすすみ五月富士

平本くらら

黒富士に佇つ雪便りふところに

福沢義男

伊賀富士の親しき春田打ちにけり

芒野の奥に伊賀冨士鎮座せり

服部嵐雪

おもしろく富士にすじかふ花野かな

武藤猫車

形代の打ち寄せられて逆さ富士

木津柳芽

暮れぎはや不二もあらはに冴えかへる

富士かくれ篠のうぐひす鳴つれる

富士きえて晴るる箱根にほととぎす

片岡奈王

初富士をさへぎるもののなかりけり

※この方の情報を教えてください!

2006年04月13日

道の記(富士の道の記)

十とせあまりのむかし、子なるものゝ病て、こゝの医かしこの医の術つきて、此世のものともおもわざりしが、冨士の御山やまへねぎごとし、三五の年にあたれる時、御嶺へのぼらん事を誓ぬるに、神も其真心を納ましてや、そくに病の愈し事こそ尊くありがたけれ。

旭のつと昇り隅田あたりまで一眼にみへ渡りければ、
  きり晴や冨士と筑波を右ひだり
と口ずさみつゝ、はや市ヶ谷の御門を通り、尾の大侯の御表を過行に、我より先へ旅のよそほひしたる人の行けるあり。久しう此みち行来ゝせぬ事にありぬれば、「此人冨士へや行かん、府中へや行かたなるべし。よき案内や」と、己がこゝろにたくし、付行けるに、程もなく大きやかなる道へいづ。

「しばし足を休めん」と茶家に立より茶などふくしてありけるに、はや冨士の登山終りて帰かへれる同者五六人も此茶店に休み居たり。草咄してある其中に、先達とおぼしき人油扇子を笏にとり、或は開きて風を乞て咄すを聞ば、「夫(それ)冨士山はいにしへの事はしらねども、元禄の年次、甲陽吉田口を道ひらきせし食行身禄といへるは、勢州一志郡清水村の産にして富めるものなりけるが、行者となりて家を出、十七歳より御山へ登山なし其外諸国諸山をへめぐり、果は江戸山手に借家して妻もありて女子三人ありとかや。四十五ヶ年の登山終つて六十三歳の時、『中なる娘は其器にあたる行者也』と、行法並書るものどもを譲り教へて登山なし、三十一日の断食し七合五勺目に入定あられしとかや。今烏帽子岩にてなり。夫よりして北口登山の同行多く吉田の繁栄いちぢるし。又此食行の教へに、冨士山は神佛両部にて死服の穢れ魚肉の穢れをいとわずとも、心にも諸の穢れなければ登山して、其ねぎ事の叶はぬはなし」など、実か否かわしらねど、鼻うごめかして語り居けるを、かたわらにてこゝかしこ聞、「長物語きかんも道行邪魔」と立いでつ。

   かつらなる其つ文字かわ(は)しらねども弓とつらなる近道を来て
と言いつゝ舟をわたり、此乗合先の商人と又下野佐野辺のものなるよし五人連にて冨士参詣のものにして、我もよき同行と思ひ、咄し合、渡しを上り崖に添、弓手に流れをみて行ば、ほどなく吉野へいづ。

木戸を通れば大鳥居、「冨士山大権現」の額は新田源道純公の御筆也。此鳥居の前にひざおりて鈴ふりならして御歌を上る同者あり、又直さまに行も有。是より御師商家軒をならべて賑しく、登り来る同者あれば、登山過て帰る同行ありて、其鈴の音かしましく、我講の御師は仙元坊なれど、一人り別ならん事の本意なくて佐野の五人らが御師外川能登守へ行んと約しつゝ、東側にて中程ほどの外川の家へ馬もろ共に七ツ下りに着にける。

又しばしして「夫々の御勘定はかくの通」と手代の持出す書付は、
一百廿二文御山役料 一九十弐文 綿入損料 一百文 御持弁当 一八十文 上下わらし四足 一八十文 強力わり合 十壱人前四百九十文
といへる所へ、一人毎に金弐朱つゝ出し残りは「余り少しなれども坊入也」と手代に渡せば、御師の出て坊入の礼をのべ、「はや寝まり候へ」と蚊帳つり寝ござふとんまで持出す合図にほつ/\降り来る小雨は、「今日午の七刻土用の明し印にもやあらん冷しさや」と不二の御山を枕とし能き夢みんと、みなもろ共に寝まりけり。

又先程ほどのくみ給へる酒の御恩も多性のいにし、しるとしらぬをゆるし給はゞ行衣の御判をかたに着て先達をやいたさんと、
   先達にあらねど夫と頼まれて呑込んで行五合目の酒
といへければ、みな/\と笑わらへけり。


※新潟大学佐野文庫所蔵の一冊しかないらしい。

飯田龍太

強霜の富士や力を裾までも

裏富士の月夜の空を黄金虫

紅梅や富士充実の白に満ち

夏富士のひえびえとして夜を流す


飯田龍太 について

飯田蛇笏

ある夜月に 富士大形の 寒さかな

初富士や樹海の雲に青鷹(もろがへり)

裏富士のすそ野ぐもりに別れ霜

富士垢離のほそぼそたつるけむりかな


飯田蛇笏

武石佐海

高嶺蝶見失ふとき富士まぶし

南沢よね子

冬の湖波立ち逆さ富士見せず

鍋島一草

露霜の蝦夷富士雲の厚き日箭

※この方の情報を教えてください!

苗村千里

深川や芭蕉を富士に預けゆく

飯利勝郎

草田男忌夕星(ゆうづつ)肩に男富士

八島美枝子

二日富士望みて寄木細工買ふ

白幡千草

蝦夷富士にマ−ガレットに雨晴るる

白根栄一

裏富士の紫紺となりて秋晴るる

※この方の情報を教えてください!

白井常雄

雪襞の濃淡もまた師走富士

笠曇を脱がぬ裏富士梅日和

富安風生(とみやすふうせい)

露涼し朝富士の縞豪放に

大空に雪解富士たゞあるのみなり

富士の霧圧倒し来る月見草

一片雲もて秋富士を荘厳す

葉月なる竪縞あらし男富士

初富士の大きかりける汀かな

赤富士に露滂沱たる四辺かな

熔岩原(らばはら)の野分の荒き男富士

赤富士やぬうっと近き面構え

赤富士に露の満天満地かな

あはあはと富士容(かたち)あり炎天下

秋富士に孤鶴のごとき雲をおく

初冨士や茶山の上にかくれなし

片雲を扇かざしに秋の富士

一痕の雪渓肩に男富士

萬緑の中富士とわが一対一

秋富士を拾う湖辺の撩


※富安風生は、自筆の句集「富士百句」をまとめている。

参考URL
http://www1.ocn.ne.jp/~go79dou/haiku001.html

2006年04月12日

大淀三千風

涼しさや始て富士に後むく


「日本行脚文集」
先づ此山の開始は、いともかしこき聖君、孝安天皇九十二、水無月一夜のうちに、江州に凹(なかくぼ)の湖湧出、浮島が原に凸(なかたか)の富峰忽然と生出たり。しかあれば八層の下陰に皇帝の陵をとどめ給ふ。かつ役の角仙信託をうけ、忝なくも天照大神の息神魂(いきみたま)、市杵島姫の幸魂、加久夜姫命、則ち此御山の本主也

古川古松軒

「東遊雑記」
予、山水の癖ありて諸国を巡り、予の見る所の勝景を以て考え見るに、山においては富士を越ゆるものなく、景において松島にまさるものなし

島村正

登山路に灼けゐし富士の火山弾

宝永の火口に憩ふ登山隊

登山隊宝永山の窪歩く

渡辺和子

五合目の燭いきいきと野分富士

内田暮情

五月富士水車は高き水玉を

徳山暁美

冬霞む遠富士肩の力抜く

藤林正則

雪残る利尻の富士や涛洗う

利尻富士大きく見えて冬に入る

藤田雅子

夏の富士ただ黒くして巨いなる

藤谷紫映

登山馬富士の夕霧まとひ来る

奴井静子

大富士の影うすうすと梅雨の月

※この方の情報を教えてください!

土岡夕焼

雪富士の襞消ゆるまで白砂に

都築澄子

逆富士の湖面を渡る若葉風

中西悟堂

富士までにおよぶ雲海ひらけつゝ大見晴らしの朝鳥のこゑ

※高尾山に上記の歌碑あり。

2006年04月11日

山岡鉄舟

晴れてよし曇りてもよし不二の山
  元のすがたは変らざりけり

塚原巨矢

青富士の片膚ぬぎの雲は秋

初富士夕富士となり凧ひと日

鳥井保和

富士に触れ雪雲富士に雪降らす

長瀬春枝

えぞ富士の裾ひきしめる芋の花

※この方の情報を教えてください!

中島月笠

天の原夏冨士藍を流しやまず

中山一沖

登山杖富士の焼印のみならず

※この方の情報を教えてください!

中原八千草

朝霧の霽れゆく富士をまのあたり

※この方の情報を教えてください!

中岡照子

初冨士銀燦然と狩場みち

渡辺蟹歩

赤富士のたちまちに紺秋どどと

堤愚亭

逆さ富士色無き風の波に消ゆ

※この方の情報を教えてください!

津田悦子

逆さ富士映しコスモス映す湖

※この方の情報を教えてください!

鳥居ひろし

強力の一歩一歩や富士薊

2006年04月10日

景戒

「日本現報善悪霊異記(日本霊異記)」
天皇敕之、遣使捉之。猶因驗力、輙不所捕。故捉其母。優婆塞令免母故、出來見捕。即流之伊圖之嶋。于時、身浮海上、走如履陸。體踞萬丈。飛如■鳳。晝隨皇命、居嶋而行。夜往駿河、富岻嶺而修。然庶宥斧鉞之誅、近朝之邊、故伏殺劍之刃、上富岻也。見放斯嶼而憂吟之間、至于三年矣。於是乘慈之音、以大寶元年■次辛丑正月、近天朝之邊、遂作仙飛天也。

(書き下し)
天皇勅して、使を遣りて捉らせたまふ。なほ験力に因りて、輒く捕られず。故に其の母を捉る。すなはち伊図の嶋に流す。時に身は海の上に浮び、走くことが陸が履くが如し。体は万丈に踞り、飛ぶこととぶ鳳の如し。昼は皇の命に随ひて嶋に居て行ひ、夜は駿河の富岻嶺に往きて修ふ。然うして庶はくは斧鉞の誅を宥され天朝の辺に近かむことをねがひて、故に殺る剣の刃に伏ひて、富岻の表を上る。「斯の輿に放たれて憂へ吟ふ問、三年に至る。是に慈の旨を垂れたまへ」とまうす。


景戒について

炭太祇(たんたいぎ)

みじか夜や雲引残す富士のみね

短夜や雲引き残す富士の山

滝春一

晩春や見えしところに富士見えず

初富士の白し葛西の海濁る

竹下しづの女

初富士の金色に暮れ給ひつつ

池田隣

朝富士のしずもる山湖冬に入る

池田二三子

峠路に富士を大きく初景色

※この方の情報を教えて下さい!

丹羽笑子

正月の雲すこし被て表冨士

※この方の情報を教えてください!

谷はるか

雪の富士大沢崩れまざまざと

※この方の情報を教えてください!

沢田緑生

雲丹採にかたむき迫る利尻富士

大野梢子

初東雲胸中白き富士を聳たす

大野雑草子

二日富士下りひかりの車窓より

2006年04月08日

大津恵子

鶏鳴や雪富士にいま茜さす

大谷碧雲居

初富士の夕映もなく暮れにけり

大森井晒女

裏富士に走る雪痕朴咲けり

※この方の情報を教えてください!

沢田弦四朗

富士晴れて橋に籾干す忍野村

青栗や曇れどさやに信濃富士

大島蓼太

不二晴れて更に山なきあした哉

此神の玉に霽たり霧の不二

五月雨夢にも不二は見えぬ也

2006年04月07日

黛まどか

富士山を入れて撮れよとサングラス

村井隆

青富士に雨雲ひくくしてはやき

秋富士のあかつきは色幾変化

大場美夜子

秋嶺として遠富士のあきらかに

なめらかな海に裳を引く春の富士

倉田晴生

青富士や渺々風の夏雲雀

蘇谷やすお

九合目はまこと胸突富士詣

前田六霞

夕立去る富士の笠曇おきざりに

村田青麦

満目の雪の極みに雪の富士

村田とう女

真夜の富士春星あまたちりばめて

村瀬つとむ

空席を埋めし露人に寒の富士

近松門左衛門

「信州川中島合戰」
地 さあ/\敵(かたき)の根は切つたり。國境(くにざかひ)迄お供といはんも此の足元。老母も氣遣ひ。御縁もあらば又重ねて隨分御無事で。其方(そつち)も無事で。さらば。/\と一禮のべ。
コハリ 別れて歸る勘介が。仁は玄徳智は孔明勇は關羽に並びなき。譽れは三國名は高き。富士を移して諏訪の不二。

謡 戀ゆゑ旅を信濃路や。 ナホス 淺間が嶽とつらねける。山の煙も我が思ひには。 フシ 丈も及ばじ。 フシ 富士の山。雪の肌に花の顔。鹿子斑(かのこまばら)の。雲の帶。肩に。素縫(すぬい)の。金紗の フシ 千鳥。裾野の模樣望月の。駒の追風そよ/\戦(そよ)ぐ。


浄瑠璃「聖徳太子絵伝記」
日本廻りのだけ/\の。ふじもつくばもめの下に。もゆるあさまのあさまにも。たにの小川のけふりかとひらやよかはの花ぐもり。見下ろすからに一かすみ。

田山花袋

「田舎教師」
行田から羽生に通う路は、吹きさらしの平野のならい、顔も向けられないほど西風が激しく吹きすさんだ。日曜日の日の暮れぐれに行田から帰って来ると、秩父の連山の上に富士が淡墨色にはっきりと出ていて、夕日が寒く平野に照っていた。

かれは茶を飲みながら二三枚写生したまずい水彩画を出して友に示した。学校の門と、垣で夕日のさし残ったところと、暮靄(ぼあい)の中に富士の薄く出ているところと、それに生徒の顔の写生が一枚あった。荻生さんは手に取って、ジッと見入って、「君もなかなか器用ですねえ」と感心した。清三はこのごろ集めた譜のついた新しい歌曲をオルガンに合わせてひいてみせた。

寒い日に体を泥の中につきさしてこごえ死んだ爺(おやじ)の掘切(ほっきり)にも行ってみたことがある。そこには葦(あし)と萱(かや)とが新芽を出して、蛙(かわず)が音を立てて水に飛び込んだ。森の中には荒れはてた社があったり、林の角からは富士がよく見えたり、田に蓮華草が敷いたようにみごとに咲いていたりした。


「少女病」
電車は代々木を出た。
春の朝は心地が好い。日がうらうらと照り渡って、空気はめずらしくくっきりと透き徹(とお)っている。富士の美しく霞んだ下に大きい櫟林(くぬぎばやし)が黒く並んで、千駄谷の凹地(くぼち)に新築の家屋の参差(しんし)として連なっているのが走馬燈のように早く行き過ぎる。


「新撰名勝地誌」
地、丘上にあるがため、これに登れば市内の光景を始めとして、富士、筑波の諸峰隠見して目睫の間にあり。

※宇都宮の二荒山神社からの光景について。


「浅草十二階の眺望」
十二階から見た山の眺めは、日本にもたんとない眺望の一つであるということを言うのに私は躊躇しない。
それには秋の晴れた日に限る。十一月の末から十二月の初旬頃が殊に好い。東京では十一月はまだ秋の気分が残っていて、ところどころに紅葉などがあり、晴れた日には、一天雲霧をとどめずと言ったような好晴がつづくことから、殊に一日の行楽としては、その時分が最も適している。
十二階の上で見ると、左は伊豆の火山群から富士、丹沢、多摩、甲信、上毛、日光をぐるりと細かに指点することが出来る。
第一に目に着くのは富士である。東海の帝王、実際屹然(きつぜん)として群を抜いている。その下にやや左に偏って、足柄群山が見える。

2006年04月06日

西山宗因

富士は雪三里裾野や春の景

さらし干す夏きにけらし不尽の雪

斎藤徳元

煙にもすすけず白し富士の山

むさし野の雪ころはしか富士の雪

※煙にも・・・は、「富士の山」でなく「富士の雪」の資料も。(要チェック)

赤松恵子

向き直りをらむ裏富士朴散華

前田野生子

朝富士夕富士よ避暑たのしくて

石谷秀子

赤富士の前落葉松は露こぼす

石寒太

笠雲の富士遠くみて母憶ふ

船木みち子

元旦の富士みて川の流れみて

浅野余里女

富士の雲はれて樹海に虹の脚

※この方の情報を教えてください!

西尾テル子

赤富士もやがて紫夏の朝

※この方の情報を教えてください!

浅井青陽子

冬麗の富士目のあたり賀に参る

川村凡平

初富士や起しある田のニ三枚

川瀬カヨ子

一塊の雲三つ割れに富士の秋

千葉幸江

初冬富士見し夜は白き夢ばかり

2006年04月05日

松浦武四郎

「丁亥前記」
登岳も屈指五十一年、余未だ十九歳のときなりしが、吉田を上り、須走に下り、表口のほうを相らざりしかば、俗間に、北より上り南表口に下り、南より登り北に下るを、山を撃えざくとて忌むとは知れど・・・

松本十三女

雪解富士滝ごうごうと響かする

※この方の情報を教えてください!

深沢龍一

雪けむりあげ烈風の涅槃富士

森島久志

植ゑ終し田ごとに伊豆の逆さ富士

※この方の情報を教えてください!

森川許六

木枯らしやあとにひかゆるふじの山

成宮弥栄子

夜を登る富士灯の列を前後にす

瀬藤もと子

裏富士や雪解襞の荒々し

新倉矢風

登らんず富士真上より月照らす

松尾隆信

胸ぐらに迫る雪富士誕生日

2006年04月04日

村上元三

※2006年4月3日死去。ご冥福をお祈りします。


「昭島市立拝島第三小学校校歌」
○春は桜の朝ぼらけ
 仰ぐは清き富士の山
 学びの庭にいまたちて
 われらの誇り その名こそ
 拝島第三小学校

※村上元三作詞/吉田正作曲
※4番まである。

2006年04月03日

松橋利雄

夕富士や粽櫚剥ぐころの空の澄み

※この方の情報を教えてください!

松永鬼子坊

まざまざと影富士見るや富士詣

小林福女

裏富士や湖へ吹かるる草の絮

※この方の情報を教えてください!

小林一茶

巨燵より見ればぞ不二ふじの山

お花から出現したかふじの山

朝富士の天窓(あたま)へ投げる早苗かな

行としもそしらぬ富士のけぶり哉

朝不二や屠蘇の銚子の口の先

有明や不二へ不二へと蚤のとぶ

浅草の不二を踏へてなく蛙

浅草や家尻の不二も鳴雲雀

浅草や朝飯前の不二詣

浅草や犬も供して不二詣

明ぬ間に不二十ばかり上りけり

打解る稀の一夜や不二の雪

朝不二やとそのてうしの口の先

今出来た不二をさつそく時鳥

起て見よ蠅出ぬ前の不二の山

一不二の晴れて立けり初茄子

貝殻の不二がちよぼちよぼ春の雨

けぶりさへ千代のためしや春の立

蝸牛とも気永に不士へ上る也

かたつぶりそろそろ登れ富士の山

蟷螂が不二の麓にかゝる哉

斯う斯うと虻の案内や不二詣

駒込の不二に棚引蚊やり哉

蜻蛉やはつたとにらむふじの山

雲霧もそこのけ富士を下る声

かけ声や雲おしのけて不二下る

神の代や不二の峰にも泊り宿

九合目の不二の初雪喰ひけり

腰押してくれる嵐や不二詣

駒込の不二に棚引蚊やり哉

小盥や不二の上なる心太

背戸の不二青田の風の吹過る

涼しさやどこに住でもふじの山

鶺鴒やゆるがしてみろふじの山

涼しさや五尺程でもお富士山

三尺の不二浅間菩薩かな

涼しさや一またぎでも不二の山

するがぢは蝶も見るらん不二の夢

涼しさやお汁の中も不二の山

新富士の祝義にそよぐ蚊やり哉

西行の不二してかざす扇哉

達磨忌や箒で書きし不二の山

つんとして白梅咲の不二派

ちよんぼりと不二の小脇の柳哉

田子の浦にうち出て不二見かゞし哉

なの花のとつぱづれ也ふじの山

夏のよや焼飯程の不二の山

初松魚序ながらも富士の山

ほやつゞきことさら不二のきげん哉

富士ばかり高みで笑ふ雪解哉

富士に似た雲よ雲とや鳴烏

不二の草さして涼しくなかりけり

富士の気で鷺は歩くや大またに

富士の気で跨げば草も涼しいぞ

富士見ゆる門とてほこる扇哉

富士おろし又吹け〜と蚊やり哉

ふぐ食わぬ人には見せな富士の山

初夢に猫も不二見る寝やう哉

初夢の不二の山売都哉

始るやつくば夕立不二に又

御関やとその銚子の不二へむく

またぐ程の不二へも行かぬことし哉

むさしのや不二見へぬ里もほたる時

むさしのは不二と鰹に夜が明ぬ

麦刈の不二見所の榎哉

夕不二に手をかけて鳴蛙哉

夕立に打任せたりせどの不二

鎗の間は富士の見所ぞ時鳥

夕不二に尻を並べてなく蛙

涼風もけふ一日の御不二

涼風はどこの余りかせどの不二

わか草や町のせどのふじの山

脇向て不二を見る也勝角力(かちずもう)

亀殿のいくつのとしぞ不二の山

特に「一茶発句全集」を参考にした。

小野博子

初冨士にまみゆ自ずと息深く

松崎郁子

月の無き真夜の黒富士月見草

※この方の情報を教えてください!

2006年04月02日

桜の話題

<季節の話題>
桜の季節です。


吉野義子
 富士を截る一枝平らに朝桜
 夕桜一樹もて富士覆ひけり

山口青邨
 いろがみを貼りたる富士ぞ夕桜

松岡青蘿
 不二は白雲桜に駒の歩みかな

上島鬼貫
 雲や匂ふ海も桜も富士の枝

湯川雅
 富士桜より始まりし富士樹海

高澤良一
 八重桜花房重う富士を据え
 湧水と汝が奥津城と富士桜

若山牧水
 富士が嶺の麓ゆ牛に引かせ来て山桜植ゑぬゆゆしく太きを

沢村専太郎「紅萌ゆる丘の花(三高逍遥の歌)」
 希望は照れり東海の み富士の裾の山桜

宮本百合子「道標」
 下宿の神さんや娘や、その他おなじみの女たちに、せいぜい刺繍したハンカチーフだの何だのやっちゃ、大いに国威を発揚していたのさ。富士山(フジヤマ)だの桜だのってね。

徳田秋声「縮図」
 ある時は富士や桜や歌舞伎などとともに日本の矜(ほこ)りとして、異国人にまで讃美されたほどなので・・・

岡本かの子「富士
 山は晴れ、麓の富士桜は、咲きも残さず、散りも始めない一ぱいのときである。

2006年04月01日

小泉恭子

夕富士の蒼き身じまい梅二月

小松幸

赤富士に走る雪痕秋新た

※この方の情報を教えてください!

小山ますえ

遠富士へ朝日とどかず秋あざみ

※この方の情報(おやまさん?こやまさん?を含む)を教えてください!

勝浦文童

黙々と馬行き違ひ不二詣

手塚基子

瑞祥のごとく初富士現れし

早春の空一といろや富士を置き

早春の富士の車窓に走りけり

柴田竜王

寒椿富士は駿河へ雲とばし

※この方の情報を教えてください!

志村曳馬

夕映を背に薄墨の冬の富士

※この方の情報を教えてください!

志村ささを

初冨士の肩に生れ消ゆ雲のあり

※この方の情報を教えてください!

山本爽風

下山して富士を眺める夏座敷

※この方の情報を教えてください!

山田みづえ

初景色てのひらほどの遠富士

山中登代

雪煙富士のスロ−プより立てり

※この方の情報を教えてください!

山崎宗鑑

元朝の見るものにせむ不二の山

三谷貞雄

練馬野や家あれば梅富士を遠く

※この方の情報を教えてください!

三角和夫

待宵やいつしか黒き富士となる

※この方の情報を教えてください!

坂本護堂

落葉松の秀の立ち揃ふ雪解富士

※この方の情報を教えてください!