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小林一茶

巨燵より見ればぞ不二ふじの山

お花から出現したかふじの山

朝富士の天窓(あたま)へ投げる早苗かな

行としもそしらぬ富士のけぶり哉

朝不二や屠蘇の銚子の口の先

有明や不二へ不二へと蚤のとぶ

浅草の不二を踏へてなく蛙

浅草や家尻の不二も鳴雲雀

浅草や朝飯前の不二詣

浅草や犬も供して不二詣

明ぬ間に不二十ばかり上りけり

打解る稀の一夜や不二の雪

朝不二やとそのてうしの口の先

今出来た不二をさつそく時鳥

起て見よ蠅出ぬ前の不二の山

一不二の晴れて立けり初茄子

貝殻の不二がちよぼちよぼ春の雨

けぶりさへ千代のためしや春の立

蝸牛とも気永に不士へ上る也

かたつぶりそろそろ登れ富士の山

蟷螂が不二の麓にかゝる哉

斯う斯うと虻の案内や不二詣

駒込の不二に棚引蚊やり哉

蜻蛉やはつたとにらむふじの山

雲霧もそこのけ富士を下る声

かけ声や雲おしのけて不二下る

神の代や不二の峰にも泊り宿

九合目の不二の初雪喰ひけり

腰押してくれる嵐や不二詣

駒込の不二に棚引蚊やり哉

小盥や不二の上なる心太

背戸の不二青田の風の吹過る

涼しさやどこに住でもふじの山

鶺鴒やゆるがしてみろふじの山

涼しさや五尺程でもお富士山

三尺の不二浅間菩薩かな

涼しさや一またぎでも不二の山

するがぢは蝶も見るらん不二の夢

涼しさやお汁の中も不二の山

新富士の祝義にそよぐ蚊やり哉

西行の不二してかざす扇哉

達磨忌や箒で書きし不二の山

つんとして白梅咲の不二派

ちよんぼりと不二の小脇の柳哉

田子の浦にうち出て不二見かゞし哉

なの花のとつぱづれ也ふじの山

夏のよや焼飯程の不二の山

初松魚序ながらも富士の山

ほやつゞきことさら不二のきげん哉

富士ばかり高みで笑ふ雪解哉

富士に似た雲よ雲とや鳴烏

不二の草さして涼しくなかりけり

富士の気で鷺は歩くや大またに

富士の気で跨げば草も涼しいぞ

富士見ゆる門とてほこる扇哉

富士おろし又吹け〜と蚊やり哉

ふぐ食わぬ人には見せな富士の山

初夢に猫も不二見る寝やう哉

初夢の不二の山売都哉

始るやつくば夕立不二に又

御関やとその銚子の不二へむく

またぐ程の不二へも行かぬことし哉

むさしのや不二見へぬ里もほたる時

むさしのは不二と鰹に夜が明ぬ

麦刈の不二見所の榎哉

夕不二に手をかけて鳴蛙哉

夕立に打任せたりせどの不二

鎗の間は富士の見所ぞ時鳥

夕不二に尻を並べてなく蛙

涼風もけふ一日の御不二

涼風はどこの余りかせどの不二

わか草や町のせどのふじの山

脇向て不二を見る也勝角力(かちずもう)

亀殿のいくつのとしぞ不二の山

特に「一茶発句全集」を参考にした。