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海道記

富士の山を見れば、都にて空に聞きししるしに、半天にかかりて群山に越へたり。峰は烏路(ちょうじ)たり、麓は蹊(けい)たり、人跡、歩に絶へて独りそびえあがる。雪は頭巾に似たり、頂に覆ひて白し。雲は腹帯の如し、腰にめぐりて長し。高きことは天に階(きざはし)たてたり、登る者はかへつて下る。長きことは麓に日を経たり、過ぐる者は山を負ひて行く。温泉、頂に沸して細煙(さいえん)かすかに立ち、冷池、腹にこたへて洪流(こうりゅう)をなす。