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高柳重信

富士白富士至るところの富士見

いまわれは遊ぶ鱶にて逆さ富士

赤富士不二も不一も殴り書き

雪しげき言葉の富士も晩年なり


「戸田町の正月」
秩父颪と呼ぶ北風が、日がな一日吹きつのり、空気が澄みきってくる夕暮れどき、夕焼に染(にじ)んだ西の地平線にくっきりとした富士が雪を被て、うす桃色に遠望できるのが、わずかに正月らしい風景なのであろうか。しかし、その遠望の富士につづく枯色の荒川の堤防や、更にそのこちら側の畑には、元旦早々から麦踏みの人影が見え、思えば、富士の遠望に心を奪われているのは酔眼の僕ただひとりのようである。