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金子兜太

富士を去る日焼けし腕の時計澄み

妻に鶏卵われに秋富士の一と盛り

富士たらたら流れるよ月白にめりこむよ

破戒僧忽然と現る富士忘れいしに

「すべて腐爛(くさ)らないものはない」朝涼の富士

朝がきて蜻蛉いっせいに富士突き刺す

猪走る朝富士褐色の腐り

富士見えぬ真昼銀漢も地に埋まり

富士黒く露にまみれて嘔吐の熊

五月富士妻癒えたれば野路に親し