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須川邦彦

「無人島に生きる十六人」
元旦の初日の出を、伊豆近海におがみ、青空に神々しくそびえる富士山を、見かえり見かえり、希望にもえる十六人をのせた龍睡丸(りゅうすいまる)は、追手(おいて)の風を帆にうけて、南へ南へと進んで行った。

また、船底につく海藻は、アオサ、ノリの類(たぐい)が多い。貝では、カキ、カメノテ、エボシ貝、フジツボなどで、フジツボが、ふつういちばんたくさんにつく。フジツボは、富士山のような形をした貝で、直径五センチ、高さ五センチぐらいの大きなものもある。これが、船底いちめんにつくのだ。

明治三十二年十二月二十三日。十六人は、感激のなみだの目で、白雪にかがやく霊峯(れいほう)富士をあおぎ、船は追風(おいて)の風に送られて、ぶじに駿河湾にはいった。そして午後四時、赤い夕日にそめられた女良(めら)の港に静かに入港した。