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高澤良一

いないいないバァを決め込む梅雨入富士

うち霞む富士三月の雑木のうへ

ゲテモノにして錦秋の球子富士

げんげ田やけふよく見えて富士の方

この向きの夏秋田富士よかりけり

さきざきに富士を眩しむ旅始め

サロベツの花咲く前の利尻富士

そこに見ゆ富士傾けて案山子翁

たちまち霧たちまち霽れて富士裾野

ハルジオン富士も薄紅帯びて聳つ

やっかいな正月の富士詠み初めに

羽衣の松越しに見る湯屋初富士

花に逝く富士を心の観世音

花過ぎの汝の墳富士が其処にあり

霞む中ふなばたよぎる利尻富士

海上に雪化粧して利尻富士

柿若葉皆富士に向く家のむき

柿若葉富士がありあり見ゆる日よ

冠雪の富士の高みに宿木も

冠雪の富士は野梅の空つづき

冠雪富士球子はいつも前向きに

干蒲団富士の白妙差しにけり

間引かれて明るさ半減富士桜

忌を修す弥生の富士のお膝元

啓蟄のぽこんと不二の佇つ遠野

厚雲に首を突っ込む文月富士

郊外に出て一月の風の富士

酷評に球子怯まぬ冠雪富士

酷評に怯まぬ錦秋球子富士

三浦富士登りてくてくつつじ季

三浦富士登山地獄の釜の蓋

三月は不二を遠目の霞み月

讃岐富士うどん腹もてあほぎけり

讃岐富士青麦畑侍らせて

枝豆を植えに植えたり秋田富士

七種の富士はすずしろ色をして

秋麗冨士頭を雲の上に出し

淑気立つ穹見渡して富士の位置

粛々と雲を募らせ睦月富士

春の雲一つぽっかり讃岐富士

春霞富士はうたたね決め込めり

春光に陵折り畳み利尻富士

春光に襞の浮き彫り利尻富士

春光をやはらかに投げ利尻富士

春光を鈍く放てる利尻富士

春夕焼け聳たする(たたする)富士のシルエット

初景色出来過ぎ富士を遠ちに置き

初御空妻は格別富士が好き

昌平坂正月富士の晴れ姿

水っ洟日の落ち際の富士を撮る

水仙に富士を配せる入賞作

青田の上日本一の津軽富士

雪解の最中の利尻富士眩し

雪解靄お顔隠るゝ利尻富士

雪嶽の富士風を切る雑木の枝

銭湯のブリキ板絵に雪の富士

銭湯の富士に長居の小晦日

銭湯の富士の淑気を浴ぶ男女(なんにょ)

早苗の上農兵節の富士現るる

窓に富士膝に初刷手に眼鏡

大寒の富士へ真向かふ尾根筋道

大空へ海猫を吹き上げ利尻富士

鷹の羽もって鷹とす一富士圖

朝富士もげんげも淡く宿発ちぬ

底冷えの富士より冷えを貰ひけり

梯子乗富士へ乗り出す膝八艘

田は展け富士の横雲げんげいろ

田蛙のかいかい富士も貌を出す

冬凪の富士が見えるぞほらあそこ

冬薔薇妥協なき色不二の白

東海道白妙の富士皮切りに

豆腐作りに富士の湧水はんぱじゃない

椴松へ利尻富士より雪解風

汝の恃みし花過ぎの富士空にあり

白隠一富士二鷹三茄子

白妙の富士に瑕瑾といふ言葉

八月の富士に向ひて釣り糸垂る

八重桜花房重う富士を据え

飛花は飛雪然ととびたり花は富士

富士に向く湯宿げんげ田前にして

富士講衆汗して高輪大木戸圖

富士臨む畦の春草照り強め

富士颪ありしや梛の春落葉

片岡球子ドカンと冠雪富士を置く

湧いてくる富士の真水に水草生ふ

湧水と汝が奥津城と富士桜

利尻雪富士望遠レンズに納むべく

利尻富士だんだんしさる雪明り

利尻富士眼鏡の球の雪解冷え

利尻富士高みうろつく雪解靄

利尻富士春さきがけの十六景

利尻富士真白に春光恰しや

利尻富士裾野に数戸春の家

利尻富士裾野青霞に突っ込みて

利尻富士呆と仰げば頬撫づ東風

利尻富士頬切る風に春遅し

利尻富士面を厳しく座禅草

利尻富士塒に春の明烏

利尻富士皚々客船真っしぐら

利尻富士顱頂を覆ふ雪解靄

流鏑馬の馬首めぐらすに冠雪富士

麗らかな容灸まん讃岐富士

恋すてふをみなの猫の富士額

櫟の芽霊峰富士に懸け連ね

雉子となり富士の裾野を啼き渡れ