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E・S・モース(Edward Sylvester Morse)

「日本その日その日(Japan Day by Day)」
山を描くにあたっては、どの国の芸術家も傾斜を誇張する――即ち山を実際よりも遥かに険しく描き表す――そうである。日本の芸術家も、確かにこの点を誤る。少なくとも数週間にわたる経験(それは扇、広告その他の、最もやすっぽい絵描のみに限られているが)によると、富士の絵が皆大いに誇張してあることによって、この事実が判る。私はふと、隣室の学生達に富士の傾斜を記憶によって描いて貰おうと思いついた。

私は髪に鋏を入れては山にあてがって見て、ついに輪郭がきちんと合う迄に切り、そこで隣の部屋にはいって、通訳を通じて、できるだけ正確な富士の輪郭を描くことを学生達に依頼した。私は紙四枚に、私の写生図における底線と同じ長さの線を引いたのを用意した。これ等の青年はここ数週間、一日に何十遍となく富士を眺め、測量や製図を学び、角度、図の弧等を承知している上に、特に、斜面を誇張しないようにとの、注意を受けたのである。

彼等は不知不識、子供の時から見慣れてきたすべての富士山の図の、急な輪郭を思い浮かべたのである。


※E・S・モース著/石川欣一訳
※旧仮名遣いや漢字は、一部現代向けに(恣意的に)直した。「絵書」→「絵描」などを含む。