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中古日本治乱記

「中古日本治乱記」(山中山城守長俊・編)に所載の歌

足利義満
 時しらぬ冨士とは兼て聞触し水無月の雪を目に見つる哉

今川上総介恭範
 はるばると君がきまさんもてなしに鹿の子まだらに降冨士の雪
 君か見ん今日のためにや昔より積りは初し冨士の白雪
 紅の雪を高峯に顕して冨士より出る朝日影哉
 月雪も光りを添て冨士の根のうこきなき世の程を見せつつ
 吹冴る秋の嵐に急れて空より降す冨士の白雲
 我ならす今朝は駿河の冨士の根の綿帽子ともなれる雪哉
 仰き見る君にひかれて冨士の根もいとと名高き山と成らん

法印尭孝
 思ひ立冨士の根遠き面影を近く三上の山の端の雲
 冨士の根に待えん影そ急るる今宵名高き月をめてても
 君そ猶万代遠くをほゆへき冨士の余外目の今日の面影
 言の葉も実にぞをよばぬ塩見坂聞しに越る富士の高根
 契りあれや今日の行手の二子塚ここより冨士を相見初ぬる
 秋の雨も晴間はかりの言葉を冨士の根よりも高こそ見れ
 雨雲の余外に隔し冨士の根はさやにも見へすさやの中山
 白雲のかさなる山も麓にてまかはぬ冨士の空に冴けき
 我君の高き恵に譬てそ猶仰見る富士の柴山
 雲はこふ富士の根下風吹や唯秋の朝気の身には染共

足利義教
 今そはや願満ぬる塩見坂心挽し富士を詠て
 立帰幾年浪か忍まし塩見坂にて富士を見し世を
 たくひなき冨士を見初る里の名を二子塚とはいかていはまし
 名にしをへは昼越てたに冨士も見ず秋雨闇小夜の中山
 見すはいかに思ひしるへき言の葉もをよはぬ冨士と兼て聞しも
 朝日影さすより冨士の高峯なる雪もひとしほ色増る哉
 月雪のひとかたならぬ詠ゆへ冨士に短き秋の夜半哉
 朝あけの冨士の根下風身に染も忘果つつ詠ける哉
 跡垂て君守るてふ神そ今名高き冨士をともに逢ふ哉
 こと山は月になるまて夕日影猶こそ残れ冨士の高根
 今そはや願ひ満ぬる塩見坂心ひかれし冨士を詠て
 冨士の根にする山もかな都にてたくへてたにも人に語ん

三条宰相実雅
 我君の曇ぬ御代に出る日の光に匂ふ冨士の白雲

飛鳥井中納言雅世
 冨士根も雲そいたたく万代の万代つまん綿帽子哉

山名持豊入道綱真宗全
 雲や我雲をいたたく冨士の根かともに老せぬ綿帽子哉

細川下野守持春
 冨士の根も雲こそ及へ我君の高き御影そ猶たくひなき
 あきらけき君か時代を白雲も光添らし冨士の高根に

山名中務大輔熈貴
 露の間もめかれし物を冨士の根の雲の往来に見ゆる白雲

太田資長
 我庵は松原遠海近冨士の高根を軒端にそ見る