水原秋桜子
獅子舞は入日の富士に手をかざす
眠る山或日は富士を重ねけり
初不二を枯草山の肩に見つ
初冨士の海より立てり峠越
初冨士の浦曲をわたる雲
初富士の見出でし岨の氷柱かな
富士つつみ立つは大寒の入日雲
風ひびき立冬の不二痩せて立つ
富士しろし百舌鳥が呼びたる空の青
鯊釣や不二暮れそめて手を洗ふ
朝霧に岩場削ぎ立つ富士薊
碧天や雪煙たつ弥生富士
黄塵の野面の隅に雪の富士
重陽の山里にして不二立てり
獅子舞は入日の富士に手をかざす
朝の蝉富士のくれなゐ褪せゆけり
波郷忌や富士玲瓏の道行きて
百舌鳥鳴けり小さき富士がまぶしくて
秋耕や富士をさへぎる山もなく
雪の富士立てり嘆きの夜ぞ明くる
風呂吹や曾て練馬の雪の不二