杉谷代水
「神曲余韻」より ((中)終盤〜(下)前半の抜粋)
(中)まひ
・・・
○近江の国のたゝ中に
大地はくぼむ七十里
忽ち海となりにけり
琵琶の形をそのまゝに
○再び飛びて波の撥は
東海百里のあなたなる
駿河大野に立ちにけり
富士の高峰と名も著く
(下)なごり
○あはれ/\天つ女神の
其の姿今やいづこぞ
たふとくも妙なる調べ
其の音の今やいづこぞ
○富士の峰の万古の雪は
天つ日の万古の影に今もにほへど
琵琶の海の五百重の
波はてる月の千里の影に今も残れど
○末の世の此の末の世に
姫神のありし姿の
うつらめや
彼の雪にかの波に
※早稲田文学、明治30年(1897)に収録
「宇宙の妙律」より (中の前半抜粋)
中 大絃小絃
○あらがねの
地(つち)のきはみは多(さは)なれど
その名にしおふ日の本は
天の精気をうけあつめ
四方に秀る国柄ぞ
○天地の
永き調和の琴の緒は
星より星と伝はりて
我が地球(よ)の中に下りては
先づ皇国(こゝ)にしもとまりけん
○国の鎮めと目もさやに
聳えて立てる富士の峰の
その頂を柱(ぢ)となして
走りゆくへや南溟の
雲のあなたか夕づゝの
北斗の星の青空か
○天つ調べの大絃の
かかりてとまる富士の根ゆ
更らに出でたる小絃は
妙義浅間や蓮華山
北は百里の蝦夷が島
千島のはてをきはめつゝ
遥かに飛ぶや西筑紫
阿蘇霧島にかけわたり
みづちあぎたふ沖縄の
波路の末ははる/\と
印度 唐土(もろこし) 欧羅巴
其の山々を柱となして
ひくや蜘蛛の綱機の糸
※早稲田文学、明治31年(1898)に収録