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山田美妙

「武蔵野」
その内に日は名残りなくほとんど暮れかかッて来て雲の色も薄暗く、野末もだんだんと霞んでしまうころ、変な雲が富士の裾へ腰を掛けて来た。原の広さ、天(そら)の大きさ、風の強さ、草の高さ、いずれも恐ろしいほどに苛(いか)めしくて、人家はどこかすこしも見えず、時々ははるか対方(むこう)の方を馳せて行く馬の影がちらつくばかり、夕暮の淋しさはだんだんと脳を噛んで来る。