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斎藤茂吉

富士がねに屯(たむろ)する雲はあやしかも甲斐がねうづみうごけるらしも


「三筋町界隈」
私は地図を書いてもらって徒歩で其処に訪ねて行った。二階の六畳一間で其処に中林梧竹翁の額が掛かっていて、そこから富士山が見える。私は富士山をそのときはじめて見た。夏の富士で雲なども一しょであったが、現実に富士山を見たときの少年の眼は一期を画したということになった。この画期ということは何も美麗な女体を見た時ばかりではない。山水といえども同じことである。