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大橋乙羽

「千山萬水」より「月瀬の春」から
旅の用意もはや整ひたればいざやとて同行四人、四月十二日の一番汽車にうち乗り、新橋の停車場を立出でぬ、國の名も武蔵相模駿河遠江参河と遠かり行き、風物も自然と異なる程に、乗り詰めの長旅も厭きの来ぬこと妙なれ。頓(やが)ては雲の富士を車の廂(ひさし)に眺め、濱名の湖水を窓前に熨(の)して、見る間に雨そぼそぼと降り出でたり。