« 白鳥省吾 | メインページへ | 石榑千亦 »

服部躬治(もとはる)

富士道者つらなりわたる並木路の並松が上に蝉鳴き喧騒騒ぐ

凝り成せる豊旗雲の凝りあへぬすこしの間に富士の遠山

遠富士は闇のあなたに月かげは闇のこなたにわれは殿戸に

相客となりし昨夜(ユフベ)の人も亦駕を出でたり富士見ゆる茶屋


「富士百首」より
手に撫でて神世の昔わが問へば巌もの言はずただ風に吼ゆ
この山しまこと扇の形ならばここや要のあたりなるらむ
ここにしてわが吹く息の狭霧より八州の野に雲満つらむか
火を噴かむけはひもあるを静なる山の姿と誰か見るらむ
足下にはたたく神の声すなりなゐかふるらむ四方の国原
見かへれば雲より外のものもなしいづこより来しわが身なるらむ
よぢていなば天知るべきをいつの世にとだえけりせむ雲の桟橋
白雪をかざみにかめば鉄のわが骨軽くなりにけるかな
わが心今ぞたらへる家に在りてよそに仰ぎし天雲の上に
かぐづちの血しほやここにたばしりし五百津磐村(イホツイハムラ)煙わきのぼる
手をのべて取らばやとしもおもふ哉ななめになりぬ北斗七星
文机に載せて見るべくこの山の形に似たる石や拾はむ
高らかに歌ひて居れば白雲のわれをはばかりて遠ざかりゆく
富士が根に煙はたたず然れども底の思ひはもえまさらずや