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宮沢賢治

「文語詩稿 一百篇」
浮世絵
ましろなる塔の地階に、 さくらばなけむりかざせば、
やるせなみプジェー神父は、 とりいでぬにせの赤富士
青瓊(ぬ)玉かゞやく天に、 れいろうの瞳をこらし、
これはこれ悪業(あく)乎(か)栄光(さかえ)乎(か)、 かぎすます北斎の雪。


「春と修羅」
雲は白いし農夫はわたしをまつてゐる
またあるきだす(縮れてぎらぎらの雲)
トツパースの雨の高みから
けらを着た女の子がふたりくる
シベリヤ風に赤いきれをかぶり
まつすぐにいそいでやつてくる
(Miss Robin)働きにきてゐるのだ
農夫は富士見の飛脚のやうに
笠をかしげて立つて待ち
白い手甲さへはめてゐる もう二十米だから
しばらくあるきださないでくれ
じぶんだけせつかく待つてゐても
用がなくてはこまるとおもつて
あんなにぐらぐらゆれるのだ