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謡曲 富士太鼓

「富士太鼓」
富士浅間いづれも面白き名なり。さりながら古き歌に、信濃なる浅間の嶽も燃ゆるといへば。
富士の煙のかひや無からんと聞く時は。名こそ上なき富士なりとも。

雲の上なほ遥なる。富士の行方をたづねん。

さしも名高き富士はなど、煙とはなりぬらん。今は歎くに其かひもなき跡に残る思子を。見るからのいとゞ猶すゝむ涙はせきあへず。

持ちたる撥をば剣と定め、瞋恚の焔は太鼓の烽火の、天にあがれば雲の上人。誠に富士颪に絶えず揉まれて裾野の桜。四方へばつと散るかと見えて。花衣さす手も引く手も。

日も既に傾きぬ。/\。山の端をながめやりて招きかへす舞の手の。うれしや今こそは。思ふ敵は打ちたれ。打たれて音をや出すらん。我には晴るゝ胸の煙。富士が恨を晴らせば涙こそ上なかりけれ。

※登場人物に富士、富士の妻、富士の女などあるが、富士山に関連する部分など適当に抜粋。