« 加藤巧 | メインページへ | 臼田亞浪(臼田亜浪) »

井原西鶴

「浮世栄花一代男」
我大願あつて冨士山に参詣ゆくと宿を立出是を養生の種として。ひさしくたよりもせざりしを此女深く恨ミ。せめてうき世をわする事とて毎夜あまた女をあつめ。気の浮立はなしに大笑ひ聞えければ忍之介折ふし此里一見に通りあハせ。何事やらんと立入ける男なしの女ばかり寄合奥さまをいさめて不義なる事を取集めて語りけるに。後にハいろを替てひとりひとり上気して。お座にたまりかねてそれそれの寝所にことかけなるうきを晴しける。


「日本永代蔵」
雪のうちにハ壺の口を切水仙の初咲なげ入花のしほらしき事共。いつならひ初られしも見えざりしが銀さへあれバ何事もなる事ぞかし。此人前後にかハらず一生悋くハ。冨士を白銀にして持たれバとて武蔵のゝ土羽芝の煙となる身を知て老の入前かしこく取置。


「男色大鑑(なんしょくおおかがみ)」
神鳴の孫介さゝ波金碇。くれなゐの龍田今不二の山。京の地車平野の岸くづし。寺島のしだり柳綿屋の喧嘩母衣。座摩の前の首白尾なし公平。此外名鳥かぎりなく其座にしてつよきを求て。あたら小判を何程か捨ける。


冨士のけぶりしかけで廻り灯籠哉

冨士は礒扇流の夕かな

はたち計冨士の烟やわかたばこ