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島木赤彦

土肥の海漕出てゝ見れは白雲を天に懸けたり不二の高根

富士が根はさはるものなし久方の天(あめ)ゆ傾きて海に至るまで


「諏訪湖畔冬の生活」
富士火山脈が信濃に入つて、八ヶ岳となり、蓼科山(たてしなやま)となり、霧ヶ峰となり、その末端が大小の丘陵となつて諏訪湖へ落ちる。その傾斜の最も低い所に私の村落がある。傾斜地であるから、家々石垣を築き、僅かに地を平(な)らして宅地とする。最高所の家は丘陵の上にあり、最底所の家は湖水に沿ひ、其の間の勾配に、百戸足らずの民家が散在してゐるのである。家は茅葺か板葺である。日用品小売店が今年まで二戸あつたが、最近三戸に殖えた。その他は皆純粋の農家である。