百井塘雨
「笈埃随筆」の「温泉」から
世に温泉の説多くて未だ理を尽さず。俗には硫黄の気伏して温泉をなすといふは惣論なり。それ地下に温泉あるがゆへに、薫蒸して硫黄有とはいふべし。地下に水脉有。火脉有其二脉一所に会して、近く融通するあれば、必ず水泉温沸す。
されば水脉と云ものに引れて、山上に出る湖有り。我邦にても奥の塩の井、甲州の塩の山など是なり。
又火脉の渤興せる富士、浅間(信濃)、阿蘇(肥後)、温泉山(肥前)、宇曾利山(南部)、霧島山(日向)等なり。平地は室八島(下野)、越後地火(蒲原郡)。或は海中にも硫黄島(薩州)、八丈島(伊豆)あり。
必火脉有れば温泉と成る。桜島(薩州)、又松前の辺なる島にも有。故に海中といへども真水有。