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押川春浪

「本州横断 癇癪徒歩旅行」
あすここそ頂上に相違ないと、余りの嬉しさに周章(あわ)てたものか、吾輩は巌角(いわかど)から足踏み滑らして十分(したたか)に向脛(むこうずね)を打った。痛い痛いと脛を撫でつつ漸くそこに達し、拝殿にも上らず、直ちにその後(うしろ)の丘の上に駆け上ると、ここぞ海抜三千三百三十三尺、高さからいえば富士山の三分の一位のものであるが、人跡余り到らぬ常州第一の深山八溝山の絶頂である。