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紀貫之

しるしなきけふりを雲にまかへつゝ夜をへてふしの山ともえなん
※新古今和歌集1008


「古今和歌集」(校註國歌大系)序
しかあるのみにあらず、さゞれ石にたとへ、筑波山にかけて君を願ひ、よろこび身にすぎ、たのしみ心にあまり、富士の煙によそへて人をこひ、松蟲のねに友をしのび、高砂住の江の松もあひおひのやうに覺え、男山の昔を思ひ出でて、女郎花の一時をくねるにも、歌をいひてぞなぐさめける。又春のあしたに花のちるを見、秋の夕暮に木の葉の落つるを聞き、あるは年ごとに鏡の影に見ゆる雪と波とを歎き、草の露、水の沫を見て、我が身をおどろき、あるは昨日は榮えおごりて、時を失ひ、世にわび、親しかりしも疎くなり、あるは松山の波をかけ、野中の水をくみ、秋萩の下葉をながめ、曉の鴫のはねがきをかぞへ、あるは呉竹のうきふしを人にいひ、吉野川をひきて世の中をうらみきつるに、今はふじの山も煙たたずなり、長柄の橋もつくるなりと聞く人は、歌にのみぞ心をなぐさめける。