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野中到(野中至)

富士の嶺を仰ぎて見れば雲かゝる行手の道も遠くもあるかな

秋寒きふじの裾野の夕暮は行手ながくもおもほゆるかな

しら雪に埋もるゝ不二の頂を今ぞ初めて踏み分けにける

おなじみの風の御神はけふはなど山の神をば吹飛ばしけん

祝ひ日のもちどころでなくやっとかゆすゝりし上に風くらひけり

ふじのねの雪の朝(あし)たの頂きをわれのみしめて住ゐぬるかな

しら雪に埋るゝ富士の頂きをげに心ある人に見せばや

しろがねにつゝみし富士の頂きは此世(このよ)の外の心地こそすれ

あられ飛(とび)風すさまじく降(ふる)雪に埋るゝ今朝の富士の頂き

あらこまを乗しづめたるのちならばうしの背なかは安けからまし

慾ばりてやかんあたまの刷毛おやぢ金に付たら迚(とて)もはなれず