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九条武子

「夕波」より
汐けむりもやごもる磯に夕富士は紺の色してたかくしありけり


「伏見丸にて」より
伊豆も遠江(とほたふみ)もまた富士も、雲多くして見えずときゝながら、船すこし動くに部屋にのみこもる。


「北海道の旅」より
蝦夷富士といはれてゐる羊蹄山(しりべしさん)が、をぐらくなつて行く空に、けれどもはつきりと重々しい姿して、大地のおごそかな威力をもつて座してゐるのが近くに見えて、六時頃倶知安駅(くちあんえき)に着いた。駅員のなまりの多い呼び声に、旅の人らはドツとみな笑つた。